生物多様性を利用した農作物生産 〜IBM農業に基づいた自然栽培の実践研究〜

上原 拓也
(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 任期付研究員)

2016年12月31日土曜日

2016年総括 – 後半

7月

近隣の中学生の職場体験を受け入れました。研究所の仕事ってどうだったかな。

紫色光に天敵昆虫が誘引されるという成果について、原理を考察した論文が圃場での実証研究よりも先にアクセプトされました。

研究に来ていた修士学生の徳嶋くん(当時)が数理モデリングを頑張りました。

Tokushima Y, Uehara T, Yamaguchi T, Arikawa K, Kainoh Y, Shimoda M (2016) Broadband Photoreceptors Are Involved in Violet Light Preference in the Parasitoid Fly Exorista Japonica. PloS one 11, e0160441.
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0160441

8月

天敵利用研究会@徳島県へ行き、天敵昆虫の利用に関する情報を集めてきました。私自身の研究も発表しました。

日本大学からインターン生を2名受け入れました。約1ヶ月間の研修。圃場の実験は大変だったかも、、、

9月

4年に一度,オリンピックのある年に開催されるInternational Congress of Entomology (国際昆虫学会) に参加してきました。
今回は,アメリカ合衆国フロリダ州のオーランドにて,9月25日 ~ 10月1日まで開かれました。


昆虫の学会らしく、公式の昆虫採集ツアーもありました。私は綺麗な糞虫や尾状突起が発達したセセリチョウを取りました。Swallowtail butterfly (アゲハチョウの仲間) が取りたかったのだけど、取れなかったのが残念でした。

海外での虫取りでは、日本で培った勘がほとんど通用しないことがよくあって、面白く感じます。

10月

母校の長野県南安曇農業高校を「やさしい科学技術セミナー」の打ち合わせのために訪問してきました。雰囲気は私の在学中と変わらずでした。


小倉さんには大変お世話になりました。ありがとうございました。
セミナーが開催される2月も宜しくお願いします。

11月

ブログに書けることは少ないですが、あちこちへ出張したり、書類を書いたり、実験ができないくらい忙しい月でした。

12月

「光で天敵を集め、害虫を減らす技術を開発」という研究が、農林水産省の農林水産研究成果10大トピックスに選ばれました!ありがたいことです。


まとめ

今年は、所属組織の再編や、新しく始まった研究プロジェクトなどもあり、ずっと忙しくさせてもらっていました。進行中の研究のことなどは、書けないこともあり、新しいデータが出た時など一番エキサイティングな部分をお伝えできないのは少し残念です。

すでに色々と予定が入っており、来年も充実した1年になりそうです。もう少しブログで研究に関することをお伝えできるといいですね。

来年もよろしくお願い致します。

2016年総括 – 前半

早いもので、2016年も今日で最後です。
4月からこのブログを始めさせていただいていますが、秋以降は特に充実しすぎて、更新が滞っておりました(月1更新を目標にしていましたが達成できませんでした、、、)。
今年最後の日に、2016年を総括したいと思います。

1月

筑波大のGFESTという中・高校生向けの科学プログラムの一環でこれまでの勉学や研究の経験について、講義をする機会をいただきました。

講義後のアンケートで、たった一人だったけど、私の伝えたかったメッセージをほぼ100%受け取ってくれていた生徒さんが居て、嬉しかった。

2月

性フェロモンの論文を化学生態学の国際誌 Journal of Chemical Ecologyに投稿。

3月

紫色光に対する天敵昆虫の応答に関する、実証試験、基礎的研究をそれぞれ、Scientific Reports, PLoS ONEに投稿。

大阪で学会もあり、大忙しでした。

4月

本助成の授賞式、Japan Prize授賞式に参加させていただきました。4月のブログにも書きましたが、本当に貴重な体験をさせていただきました。

5月

実験のために、サツマイモやトマトを圃場に定植しました。
私の所属機関は農業に関する研究所ですから、野良仕事もします。

6月

ホシヒメホウジャク(Neogurelca himachala sangaica)という蛾の性フェロモンに関する論文がアクセプト。
(10E,12Z)-10,12-hexadecadienalという成分単独で構成された性フェロモン。この成分は、蛾の性フェロモンとしてはありふれた成分なので、この蛾がどうやって同種だけを見分けられるかということを議論しました。

Uehara T, Kitahara H, Naka H, Matsuyama S, Ando T, Honda H (2016) Single-Component Pheromone Consisting of Bombykal in a Diurnal Hawk Moth, Neogurelca himachala sangaica. Journal of Chemical Ecology 42, 517-522.
http://link.springer.com/article/10.1007/s10886-016-0714-y

後半に続きます。

2016年9月15日木曜日

光で天敵を集め、害虫を減らす

紫色LEDの照射で天敵を集める

昨日付で、農研機構から「光で天敵を集め、害虫を減らす技術を開発」が報道発表されました。
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/071030.html

詳細は、上記webページにありますので、ここでは概要をざっくり3行でまとめると、

  1. 天敵昆虫ナミヒメハナカメムシは、一般的に害虫を寄せ付けにくい紫色光 (405 nm) に強く誘引される。
  2. ナスの露地圃場で紫色光を点灯させると、野外でもナミヒメハナカメムシの誘引が確認できた。
  3. さらに、紫色光を点灯した圃場では、ナミヒメハナカメムシが害虫のアザミウマを捕食し、アザミウマの数が半減した。

という驚くべき結果が得られました。

天敵を用いた害虫防除は、農薬に代わる技術として期待されています。
しかし、天敵は生き物、思った通りに害虫を退治してもらうためには、
工夫が必要です。

そこで今回は、「走光性」という生物が光に集まる性質を利用して、
天敵の行動をコントロールすることを試みました。

すると、紫色LEDを圃場で光らせることによって、
想像以上に天敵が作物に集まり、害虫を食べ、
そして害虫を抑えるということが分かりました。
ここで大事なポイントは、紫色光が天敵のみを誘引し、害虫を寄せにくいということです。

下記が掲載された論文です。
Ogino T*, Uehara T*, Muraji M, Yamaguchi T, Ichihashi T, Suzuki T, Kainoh Y, Shimoda M (2016) Violet LED light enhances the recruitment of a thrip predator in open fields. Scientific Reports, doi:10.1038/srep32302. (*equal contribution)
http://www.nature.com/articles/srep32302

この研究は修士学生の荻野くんが暑い中、圃場試験をとても頑張りました。

この研究と少し離れて、、、

今回の研究では、天敵昆虫のナミヒメハナカメムシと、
害虫であるアザミウマに焦点を当てました。
光照射は、この2者だけでなく、圃場やその周りの環境を含めた
農業生態系にも影響を与えているはずです。

実際に紫色光を照射した圃場では、アザミウマ以外の害虫が減ったり、
天敵昆虫よりも大きい捕食者が増えるということが観察されています。

しかし、紫色光照射よって農業生態系にどのような変化が起こったのかについては、まだ研究の途中です。

「ヒトと虫が共存共栄できる新しい農業」というのが、
私の子供の頃からの目標なのですが、研究を進めることによって、
この「新しい農業」を提案できるのではと思っています。
本財団から助成を受けている「生物多様性を利用した農作物生産」では、まさにそういったことを研究しています。

2016年6月18日土曜日

虫の日

昆虫界隈では、6月4日は、語呂合わせで虫の日です。
日本各地で、虫に関するイベントが行われています。

今回は、私が研究をしているつくば市で毎年行われている、
一風変わった、虫の日恒例イベントをご紹介します。

つくば市には農水省の研究機関が集まっているため、
昆虫の(害虫を中心として)研究者が多く勤めています。
ここでは虫の日に合わせて、「蟲の日イベント」が開催されます。

毎年、蟲の日には昆虫研究者が集まり、 セミナーを聴いたり、
日々の実験で犠牲になっている虫たちを供養したりするのです。

これら一連の蟲の日イベントは、数ある研究所の中でも、
敷地内に「蟲塚」を有する農研機構 生物多様性変動センター
(旧称: 農業環境技術研究所)で行われます。



蟲塚は、旧農業技術研究所が東京の西ケ原から
つくばへ移転してくる時に建てられたとされ、
昆虫研究の大家である石井象二郎先生の書があしらわれています。
(なお、蟲塚の経緯についてはこちらに詳しく書かれています。 )

私は、学生の頃からほぼ毎年このイベントに参加しています。
もう研究を引退された方から学部生まで虫に関わっている方が参加しており、
供養後の懇親会では、同窓会的な雰囲気の中で、
虫屋(※注)の熱い昆虫談義が交わされます。

懇親会はいつもちょっと混沌としていますが、
その雰囲気がまた私には心地よいのです。

今回のイベントでは、
私が研究助成をいただいているテーマ「IBM農業」を提唱された
桐谷圭治さんともお会いすることができました。

※注 昆虫愛好家を虫屋と総称し、愛好する分野に応じて蝶屋、
カミキリ屋と呼ぶのが昆虫界隈では粋とされている。

2016年5月25日水曜日

田植えの季節ですね

私の故郷である安曇野は、今まさに田植えの季節です。
田んぼに水を張り、代かきをしてからしばらくすると、泥が沈殿して水が澄んできます。
その澄んだ水面に映る常念岳の姿、畦畔の青々しさ、木々の新緑、
これぞまさしく安曇野の象徴的な風景であると思います。
この景色が、私は一番好きですね。

勉学や研究のために故郷を離れてしばらく経ちますが、
毎年、この季節になると安曇野へ帰り、田植えの手伝いをするのが恒例です。
やはり、農業に関連する研究をしている手前、
自分の家の畑仕事くらいはできるだけ手伝いたいという思いがあります。

今年は、仕事と重なってしまい田植えには参加できませんでしたが、
先日、私用で帰省したときに、田植え後の様子を見ることができました。
私の研究の目標や考え方は、私がここで生まれ育ったことに強く影響されています。
折に触れて、この土地の農業や自然のことを紹介したいと思います。

あぁ、なんということでしょう。麦畑を手前に常念岳を撮ってしまいました。

安曇野を語る上で切って離せないのが、常念岳でしょう。
常念岳は日本百名山の一つにも数えられており、標高は2,857メートル。
左右に均整のとれたその形は(もっとも、見る角度によってずいぶん姿が変わりますが)、
3,000メートル級の山々が連なっている北アルプス連峰の中でも、
安曇野の景色の象徴となっている所以でしょう。

この季節になると、冬の間に積もった雪が溶け始めます。
山肌の、山の部分の雪は早く溶けるのに対し、谷の部分の雪は残るため、
雪の白と山肌の黒とが紋様を呈してきてます。
これを、雪型と呼びます。

常念岳に、お坊さんの形の雪形(常念坊)が見えてきたら、
田植えをするというのがこの辺りの習わしです。
確かに、雪が十分に溶けるには、ある程度の暖かさが一定以上続く必要があり、
農業をする上で雪形を目安にすることは理にかなっています。
先人の知恵というのは、すごいですね。

残念ながら、今回私が訪れた頃には、雪はすっかり溶けてしまっていて、
もう雪形は見られませんでした。
来年こそは、田植えに参加して、常念坊を拝みたいですね。

2016年4月27日水曜日

授賞式で感じたこと

先日、財団の助成金贈呈式、日本国際賞授賞式に参加させていただきました。
授賞式は、発見した人の功績をたたえるだけではなく、功績を生み出した受賞者本人の軌跡やその家族を紹介する構成になっており、その人の人間性が伝わる素晴らしいものでした。

とりわけ私の琴線に触れたこと、2つを綴ります。

家族

今回、受賞された両先生が、ご夫妻で登壇されている姿が印象的でした。
両先生の紹介VTRやスタンリー博士の受賞スピーチでは、
「家族の支えがあったこと」が強調されていたように思います。
節目ごとに感謝を表明するというのは大切ですね。

早速ですが、かくいう私も妻には感謝せねばなりません。
妻は、いわゆる元リケジョで、科学に関しては二人でたびたび議論をします。
何を隠そう、今回の助成申請書も妻の批評を何度か受けているのです。

私は昆虫学、化学生態学が専門で、妻はもともと細胞生物学が専門なので、分野は少し違いますが、その分、程よい距離感の意見をくれます。
今回の授賞式にも2人で出席し、大変貴重な体験を夫婦で共有させていただきました。


教養

オーケストラの演奏も楽しませていただきました。
私は、オーケストラの構成などは詳しくないのですが、
「コンサートマスター」という言葉は聞いたことがあります。
演奏において、非常に重要な役割を果たすのだそうですね。

妻は、私よりも音楽に造詣が深いのですが、
「あの青いドレスの女性がそうかな?」と聞くと、
「あの人は、ソリストよ」と言われました。
なかなか奥が深いですね。
(※ 最終的にはどの方がコンマスか分かりました)

感覚で聞くのがもちろん一番の楽しみ方だと思いますが、
能書きを垂れるのも一つの楽しみ方ではないでしょうか。

一般的に、研究者は能書きが好きな生き物です。
能書きばかりでは興ざめしてしまいますが、意味合いや深みを捉え、モノの価値を理解するためには適度な能書きが必要です。

そして、モノの価値を自身で理解する能力や、能書きを加えて他者にその価値の理解を促す資質を教養と呼ぶのだと、私は解釈しています。

オーケストラのことはまだまだ勉強が必要ですが、研究のことについては私も一家言あります。
この場でこれから研究に関する能書きを垂れさせていただいて、
科学の面白さや興奮を伝えていけたらと思います。